zakki:

３月の末です。もうとっくのとうに暦の上では春が来ているはずなのに、
今日は朝から肌寒い天気でした。
うさ銀が「ちょっとさむいな」と思いながら、外の様子を確認する為に
障子戸をからりと開けて、縁側に出て空を見上げていると、
ゆっくり、ちらちらと雪が降ってきました。
「きのうは、あんなにあったかかったのに、ふしぎだな…」と
うさ銀は、じ…と雪を見つめます。
うさ銀の服の袖口に落ちてきた雪は、きれいな形をしていました。
雪の結晶は、ひとつとして同じ形のものがないと言われています。
うさ銀は、雪の結晶がとけながら水に変わっていく姿を
見つめていました。
きれいな形がなくなってしまうのは、ほんの少しさみしい、と
思いながら。

うさ銀は、そろっと腰を上げると、お部屋の中に帰って行きました。
お部屋の中にある、うさ銀の為に沖田くんが買ってきてくれた
ちいさい机の上には、沖田くんがうさ銀がよろこぶかもしれない、と
思っておりがみで折ってくれた、うさぎやお花、にんじんやお魚、
キリンやぞうなどの作品がたくさん乗っかっていて、とてもにぎやかです。
沖田くんは小器用な方なので、ちょっと本を読んだだけで、
割かしじょうずにおりがみ作品を作る事が出来たのです。
うさ銀は、沖田くんがうさ銀に作ってくれたそれらのおりがみ作品の
中から、きらきらと光る銀色のおりがみ作品を手に取りました。
それは、雪の結晶の形をおりがみで作ったものでした。
これは、さっきの雪みたいに、とけてなくなったりはせず、
ずっとうさ銀のそばにいてくれるものでしょう。

沖田くんは朝早くからお仕事の為、今、うさ銀のそばには
いません。今、うさ銀をだっこしたりおんぶしたり、
手を繋いだりは、出来ないのです。
それでもなぜか、ほんの少し。
おりがみの結晶を持った手が、握られた時の様に、あったかいような、
不思議な気持ちになったうさ銀でした。